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鹿児島地方裁判所加治木支部 昭和41年(ワ)16号 判決 1968年11月19日

主文

一、被告有村多恵は原告に対し、別紙第一目録記載の土地建物について、昭和三八年三月一九日鹿児島地方法務局横川出張所受付第五六号をもつてなされた、所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

二、被告今村尚子は被告有村多恵に対し、別紙第一目録記載の土地、建物について、昭和四〇年一二月一三日鹿児島地方法務局横川出張所受付第二一九四号をもつてなされた、抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

三、被告鹿児島市農業協同組合は訴外荒武禎年に対し、別紙第一目録記載の土地、建物について、昭和四〇年一二月二四日鹿児島地方法務局横川出張所受付第二三一五号をもつてなされた、根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

四、訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一項ないし第三項同旨の判決を求め、その請求原因として

一、別紙第一目録記載の土地、建物は原告の所有であるが、昭和三〇年四月一六日原告の子である訴外椎原武法が、原告の印鑑を無断で使用して訴外荒武禎年に売渡し、移転登記を了した。

二、そこで原告は、訴外荒武禎年に対して所有権移転登記抹消の訴を提起し、昭和三六年一二月二八日右土地、建物につき、所有権移転登記抹消の予告登記がなされた。そうして、右訴訟は原告が勝訴し前記売買は無効であることを確認し、荒武禎年は原告に対し、前記所有権移転登記の抹消手続をなす旨の判決があり、右判決は昭和四一年一月三一日確定した。

三、被告有村多恵は右予告登記の後昭和三八年三月一九日に、右土地、建物につき右荒武禎年より売買を原因とする所有権移転登記をなしているものであるが、原告と荒武間の売買契約が無効であり、所有権移転登記の抹消をなすべき判決が確定した以上、被告有村多恵のなした登記は何等実体的権利を伴わないものであり、且つ原告に対抗すべき権利もない。従つて右所有権移転登記は抹消されるべきである。

四、被告有村多恵から被告今村尚子に対して、昭和四〇年一二月一三日右土地、建物につきなされた抵当権設定登記もまた、被告有村多恵が原告に対抗し得べき所有権を有しないのになされたものであるから、抹消さるべきである。

五、訴外荒武禎年から被告鹿児島市農業協同組合に対し、昭和四〇年一二月二四日右土地、建物につきなされた根抵当権設定登記もまた、訴外荒武禎年が何等実体的権利を伴わないのになしたものであるから、原告に対抗し得ないもので、抹消さるべきである。

と述べた。

(立証省略)

被告等訴訟代理人は「一、原告の請求を棄却する。二、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として

一、原告の請求原因事実第一項のうち別紙第一目録記載の土地、建物がもと原告の所有であつたこと、これを荒武禎年に売渡による所有権移転登記がなされたことは認めるが、原告の子椎原武法が原告の印鑑を無断使用して右登記をしたとの点は否認する。

二、同第二項は事情がちがう。訴外荒武禎年は昭和三〇年四月一六日別紙第一目録記載の土地、建物ならびに別紙第二目録記載の土地を原告から一二五万円で買受け、代金を完済し、第一目録記載の土地、建物については所有権移転の本登記を、別紙第二目録記載の土地は農地のため所有権移転請求権保全の仮登記をし、同年一〇月一日右全不動産を荒武に引渡す旨約定せられていたのにかかわらず、原告がその義務を履行しないので、荒武は原告を相手取り右不動産全部の引渡請求の訴を提起した。これに対し原告は反訴として、昭和三六年一二月二二日別紙第一、二目録記載の土地建物に対する右各登記の抹消を請求した。第一審においては、昭和三九年一月二一日言渡しの判決により、荒武が勝訴したが、第二審では、荒武側の安心感から、立証が不十分であつたためか、原告の子椎原武法の証言を一方的に採用された重大な事実誤認に基き、荒武敗訴の判決を受けたので、上告手続を荒武の訴訟代理人に依頼しておいたところ、同代理人が死亡一ケ月位前のこととて、上告状、同理由書も準備しながら、提出を忘れたため、そのまま判決は確定した次第である。

三、同第三項、第四項、第五項のうち、別紙第一目録記載の土地、建物につき、被告有村多恵、被告今村尚子、被告鹿児島市農業協同組合に対し、原告主張のごとき所有権移転登記、抵当権設定登記、根抵当権設定登記がなされたことは認めるが、その余の点は全部否認する。

と述べた。

(立証省略)

別紙

第一目録

姶良郡牧園町高千穂字殿之湯三、八七八番の五六

一、原野 一反二畝歩

同 郡同 町下中津川字殿之湯三、八七八番の九八

一、宅地 一二一坪三合八勺

同 郡同 町高千穂三、八七八番

家屋番号同所三八五番

一、木造茅葺平家建居宅 一棟

建坪一四坪

同 所同 番

家屋番号同所三八二番

一、木造小板葺平家建居宅 一棟

建坪一九坪

第二目録

姶良郡牧園町高千穂字殿之湯三、八七八番の六三

一、田六畝二六歩

同 所三、八七八番の六五

一、田一反一畝二九歩

同 所三、九〇三番の乙

一、畑九畝六歩

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